背中
前回の続き。
年末に再入院してしまったTさんは、その後も入退院を繰り返していました。大型連休にあった集まりはお見舞いに変わり、僕は少しでも入院生活に退屈しないようにと差し入れを持ってTさんの顔を見に行っていたのを覚えています。 小型のテレビ、ラジオ、ゲームや日用品等、色々持参してみましたが、その中でもテレビは特に喜んで貰えました。個室のテレビは別途お金が掛かるようだったので。
翌年の3月。 退院したTさんは、自宅ではなく施設に引っ越したと聞き、僕は様子が気になり1人で会いに行ってみることにしました。
僕「ご無沙汰しています。体調どうですか?」
Tさん「前よりは調子良いよ。それより、しょっぱい物食べたい。」
僕「近くにモスありましたよ、行きます?」
Tさん「行こう!テリヤキバーガー食べたい。病院の飯は薄味で不味いんだよ。」
——『タバコもお酒も禁止だけど、ハンバーガーくらいはいいよね。』僕は、小柄になったTさんを見ると胸が苦しくなりました。
僕「まぁ、健康のためですからね。(笑)」
Tさん「タバコ1本くれよ。」
僕「駄目ですよ。(笑)しかもアイコスですよ?」
Tさん「じゃあいいや。(笑)」
僕「あの信号渡って右に曲がったらモスですよ。」
Tさん「ごめん、ちょっとゆっくり歩いてもいいか?」
僕「大丈夫ですか?ゆっくり行きましょう。」
——『足、痛いのかな?』
僕「すぐ赤に変わらないと思うけど、信号は気を付けましょう。」
Tさん「悪いな。」
僕「次、青になったら行きましょうか。」
モスバーガーに到着。 平日のモスバーガーは空いていて、他にお客さんはいませんでした。
僕「あそこの4人席に座って待っていてください。単品にします?セットにします?」
Tさん「セット。飲み物はコーラがいいな。」
僕「分かりました。」
僕は、Tさんと同じセットを注文し、席に運ぶとTさんは嬉しそうにテリヤキバーガーにかぶりつきました。
僕「どうですか?久々のジャンクフードは。」
Tさん「美味い!(笑)」
僕「よかった!(笑)」
Tさん「皆、元気してるか?」
僕「Aは営業に転職して大変そうです。おデブちゃんは朝が早くて時間が合わないですね。」
Tさん「そうか。お前は最近どう?」
僕「僕は普通ですかね。特に変わったことは無いです。あ、この間ネット麻雀で1位獲りましたよ。」
Tさん「凄いじゃん。お前やってるの〇〇だろ?強くなったなー。」
僕「半月の間だけでしたけどね。(笑)元気になったらまたやりましょうよ。」
Tさん「しばらくやってないからな、前みたいに打てるかな。」
僕「Tさんだったらすぐ勘が戻りますよ。」
T「それより聞いてくれよ!病院の看護師さん酷いんだぜ。」
僕「何かあったんですか?」
Tさん「俺がエレベーターの前に立ってると、1Fまで付いて来て抜け出さないように見張ってるんだよ。」
僕「それはTさんが脱走するからじゃないですか。(笑)どうせ隠れてお酒飲んでたんでしょ。」
Tさん「まーな。(笑)」
僕「しばらくは医者の言う事をちゃんと聞いて、療養してください。何かあったら僕は嫌ですよ。」
Tさん「わかったよ。(笑)この後、買い物付き合ってくれよ。マグカップとか日用雑貨が欲しい。」
僕「いいですよ。」
モスバーガーを出たら、百均に向かう事にしました。 Tさんの足取りは重く、まだ全快では無いのだろうと感じ、また胸が苦しくなりました。 買い物を終えた後、近くの商店街を散策してこの日は解散。 僕はTさんを施設まで送るつもりでしたでしたが、止められてしまいました。
Tさん「ここまでで大丈夫だよ。荷物一人で持てるし。お前が思ってる程弱ってないから安心しろ。」
僕「でも…。」
Tさん「もう夕方だし、これから寒くなるから早く帰れ。(笑)今日はありがとうな。」
僕「分かりました。何かあったら連絡ください。」
Tさん「おう、じゃあな。」
僕は、Tさんが無事に信号渡った姿を見届けてから駅まで歩き始めました。 『Tさんの背中小さかったな…。これからどうなるんだろう。』これまでに無い不安な気持ちが込み上げて来ました。
3月の夕暮れなのに、寒さを感じませんでした。
終わり